やさしいセカイのつくりかた(1)/★★★★☆

やさしいセカイのつくりかた (1) (電撃コミックス)



どうして加山先生も広瀬も
こんなに若くて 可能性に満ちているのに
その可能性すら掴もうとしないのだろうか

僕には 理解できない…

(P.100 / 第4話「箱の中の猫」より)

主人公は19歳にしてアメリカの大学院で研究している天才学者。ある日、彼の研究は不況のあおりを受け資金難になり打ち切りとなってしまう。日本に帰り待っていたのは女子高の非常勤講師だった…というところから始まる物語。

そんな勤務先の女子高で主人公に関わってくるヒロインは二人。ファッション誌の読者モデルをしていたハルカ(表紙左)と、ずば抜けた数学の才能を持ちながらそれを隠して普通の学校生活を送る葵(表紙右)。

学生時代、天才ゆえに日本を飛びだした主人公は、同じく天才になるポテンシャルを秘めていながらそれを押し殺す葵に対して「なぜその可能性に気づかぬ振りをするのだ」と疑問に思うわけです。

翻ってティーンズ雑誌の読者モデルの世界に飛び込むハルカ。
夢がありながら「人と同じ」でいようとする葵と、「人と違う」何かを探して別世界へ飛び込むハルカ。

この二人がとても良い対比となり物語が動き出します。

ストーリーの大まかな骨格はよくある学園ものようにみえますが、この作品のポイントは主人公が飛び級アメリカへ行くほどの天才というところ。つまりヒロイン二人のいいとこ取りなんですよね。天才であり尚且つ別世界へ飛び込んだ主人公。言い換えれば、主人公は「凡人の世界」を知らないわけわけです。その彼が研究の頓挫により「凡人の集まり」である学校の世界に放り込まれるーー。

果たして物語は動き出したばかり。
三人のメインキャラクター全てにに「凡人」と「天才」の可能性が開かれている状態。主人公も二人のヒロインも、これからどういう道を歩むのか、登場人物たちが一体どんな化学反応を示すのか。もしかしたら主人公が一体なにを研究していたのかも今後の伏線となるのでしょうか、その辺りも気になるところ。

作者の竹葉久美子さん自身、一度は漫画家になるのを諦めかけたということも作品に深みを与えているのは間違いないでしょう。確かな画力に裏打ちされた表情豊かなキャラクター描写も大変魅力的な本作。

今後も目が離せない作品です。